Light of the moon

今から十数年前、カレッジが始まる前の夏休みに、周りの友達もそうしてるように、バックパックを背負って鉄道でヨーロッパを旅することにした。
バックパッカーのバイブル、トーマスクックの赤い時刻表を片手に。

パリからトゥールーズそしてバルセロナへ、体がくの字に曲がるようなベッドばかりの安宿やユースホステルを泊まり歩く貧乏旅行。
パン片手に川岸をただ散歩したり、ガウディに酔いしれたり。酔いしれた自分に酔いしれたり…

バルセロナ発マルセイユ行きの寝台列車の同じコンパートメントでオーストラリア人のバックパッカーと仲良くなり、何となく成り行きでしばし旅をともにする事に。
お互い汚いTシャツを着て、ヒゲを剃る事もしばらく気にしていないバックパッカー同士。
今では、よく知らない人と旅なんて考えられないけど、当時は、そうゆう事が楽しかった。

映画関係の仕事をしているという彼は、黒沢映画のファンということで、日本人に非常に親近感があるのだと言って、色々と世話を焼いてくれた。
実際、英語がネイティブの彼がいる事で、つたない英語のボクが話すよりもスムーズに進む事が多い。
ユースホステルの予約や、観光案内所での説明などなど。

マルセイユからニースに到着した2人は駅から南にのびる道を進み、憧れのビーチへ。
パームツリーがお出迎え。
7月の地中海は刺すような日差しと原色が溢れ出し、ただただ美しく、ただただ息をのむばかり。
あまりの感激にテンションがあがり、なんとその夜はロッカーに荷物を預けて、ビーチで野宿する事に。
もちろん寝袋はあったけど、砂ではなくジャリが敷き詰められているビーチは、横になるとゴロゴロしていて背中が痛い。
しかも、夏でも夜中は冷えるし、若者はそこらじゅうでずっと騒いでいるし、全く眠れなかった。

諦めて起き上がり、その日満月だった月が、夜になって色彩を失った海をすっと割る一筋の光をただ眺めていた。
気づけば、波打ち際の辺りに座って、同じように月の明かりを見ているカップルがいた。
暗闇の中、月明かりに2人の顔がクッキリと照らし出され、そして背後には深く濃い影を落としている光景に目を奪われた。

自分が育った場所から遠く遠く離れた異国のビーチで、思いがけず、月の灯りがこんなにも明るい事を知った。
それ以来、満月をみるとたまにあの時の2人の横顔を思い出す。

一緒に旅をしていたオーストラリア人は、イタリアのジェノバで、パリで出会ったアメリカ人の女子大生とのデート(「お互い旅を続け、何月何日、ジェノバの駅前で会おう」という、ロマンチックな約束。)を見事にすっぽかされ、その後の旅を凹み気味で過ごし、ミラノの中央駅で手を振って去って行った。

どこに行くかも告げずに、、、

お互いに連絡先は交換したが、その後送った写真入りの手紙への返事はもちろん無かった。

ウォーリーに似ている人だった。

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